Release 2017.9.25 / Update 2017.9.26

カメラスタビライザーの使い方 ドロップタイム

カメラスタビライザーの調整にはドロップタイムの設定が必要です。やり方自体は単純な事なので、ここでは主にドロップタイムを設定する意味や注意点を書いていきたいと思います。

ドロップタイムの設定方法

カメラスタビライザーを水平に持ち上げ、直立状態に落ちて行くまでの時間を設定します。

直角から手を離し、直立まで落下する時間がドロップタイム

ジンバルと錘との距離(或いはジンバル自体の位置)を調整する事で、上下間の均衡を変え、ドロップタイムの変更をします。早いようなら、錘をジンバルに近づけ、遅ければ離していきます。

ドロップタイムが早ければ、ポールを短く。遅ければポールを伸ばし、落下時間を調整する

具体的に何秒かという事に関しては、下記を参考にしてください。

ドロップタイムの意味

カメラスタビライザーは「重心を捉える」事によって、支点である「ジンバル」からの変動(手振れ)を切り離し、安定装置としての機能を実現しています。これは鉛筆の重心を指で支えて動かしてみてもわかります。鉛筆はその体勢を保持しようとし続けるため指から落ちません。

重心を捉えた状態なら、横に振っても鉛筆は同じ体勢を保持しようと…

なので、本来、カメラスタビライザーは完全に均衡を保った状態にするのが理想なんです。つまり、ドロップタイムの理想的な時間は0秒、落ちない状態のハズ。

「重さ0g」の理想

ところが、ドロップタイムを設定する事で、敢えて偏りを作り、その「理想」を放棄しています。ナゼ?これは「現実」にある不都合への対処と考えられます。

もし、スタビライザー上で全てのバランスが完全に均衡がとれた場合、それはいわば重さ0gの状態です。そうなると、ちょっとしたそよ風にも吹き飛ばされるし、歩く時に受ける些細な空気抵抗にも勝てません。

また、いくら高精度なベアリングを使っていても、構造的に密接している以上、摩擦は避けられません。つまり、ジンバルは完璧ではなく、多少の移動エネルギーは伝えていることになります。

これらの理由から、もしカメラスタビライザーが完全均衡の状態だと、それらの影響を受けて動き回り、とてもまともな状態にはなりません。無重力でグルグル回る宇宙飛行士みたいなものです。

Wikipediaより

トレードオフ

そこで、理想的な「重さ0g」は諦め、カメラと錘のバランス比重にわずかな偏りを与えてやります。例えば、49.99:50.01とか。これによって重さが生まれ、些細な外的圧力に耐えられるようになり、また動いてしまったとしても、日常の天地に落ち着くようになります。

これが、ドロップタイムが必要な理由です。

ただし、この偏りによって、カメラスタビライザーは吊るされた状態、いわば「振り子」状態になってしまい、一度動いてしまうと中々揺れが収まらりづらい面倒な事になります。カメラスタビライザーの映像が「ゆらゆら」した不思議な感じになるのも、ここに起因しています。

しかし、それを考慮しても、ある程度の安定を得るのは重要なわけで、この振り子の不都合とドロップタイムは「トレードオフ」していると言えます。

そして、これは比重の偏りが大きくなるほど(ドロップタイムが早いほど)、動きが顕著で激しくなります。

以上を踏まえると、ドロップタイムの時間は「理想である“落ちない”」と「外的要因(ベアリング摩擦・風・歩行速度)」を考慮して設定しないといけないことが分かります。いろんなところで説明されてる秒数(2〜3秒)はあくまで目安であり、必ずしも適切とは言えません。撮影装備・状況に合わせて「可能なかぎり」長く設定する方が、カメラスタビライザーの効果をより受けることが出来ると思います。

揺れの改善

そういうわけで「ドロップタイム」を設定すると言うことは、振り子になるのを受け入れることなわけですが、それを少しでも回避するための工夫があります。

ひとつは「慣性モーメント」を大きくすること。物体は「大きく・重いほど動きづらく、止まりにくく」なります。具体的には総重量を重くしていくか、ポールを長く拡張し、スタビライザー自体を重く・大きくしていくということです。

もうひとつは、揺れを止められる「補正操作」技術を身につけることです。練習することで、ある程度の揺らぎは軽減することが出来ます。

カメラスタビライザーの握り方

Steadicam VOLT

ちなみに、の話なんですが。

巷で流行している「ブラシレスジンバル」は電子ジャイロとブラシレスモータで強制的に水平を補正するもので、世に出てきた時は衝撃的な防振装置だと印象付けました。ただ、実際に触ってみるとあまり実践向きではないかな、と。

モータ角度を保持するため常に電気を使うため、いわば停車中も常にアクセルをふかし続ける車のような状態です。また、基本機械まかせなので、自由にカメラを操作する事も出来ません(機械にはカメラを「パン」したのか、手ぶれしたのか区別できない)。まあ、人を増やして役割分担(持つ人・動かす人)すれば、そういったものも可能なんですが、少なくとも個人レベル(ウン十万円以下のレベル)で扱う手軽なものは、普段の手持ち撮影ノリだと「なんじゃこりゃ」っていうものでしかありません。おそらく、「動きが面白いので自慢できる」っていう一時的なブームで、結局は、一般レベルでは空間光学手ブレ補正とかに落ち着くんじゃないかなと思っています(おなじ理屈で、より効率的&勝手がいいので)。

なんですが、スタビライザーの元祖、Stedicamブランドから遂に電子制御の「Steadicam VOLT」なる製品が出ました。ただし、これは既存の「ブラシレスジンバル」とは一線を画すプロダクトです。

おそらくセンサーとモータという組み合わせは同じでしょうが、この製品の興味深いところは、Steadicam史上初の「ドロップタイム0秒」を実現しているところです。

「重さ0g」にしてしまうと、上述の通り色々と都合の悪い部分が出てしまうんですが「その部分を機械まかせにする」という逆転の発想になっています。「ブラシレスジンバル」は「完全制御おまかせ」。対してこのプロダクトは「不都合な部分のサポート」という大きな違いです。

そして、重さがなければ、補正に動かすモータにも負荷がかかりづらいので長時間の運転も可能、という省エネ仕様です(付属の小さいバッテリーだけで8時間も!)。

ハンドルを離すと、(おそらく軽いトルクで)クルクルと回っています。

カメラスタビライザーで難しい「補正操作」も機械がカバーすることで、より手軽に安定効果と操作を出来るようにしています。今まで、どんなに頑張って調整・操作しても、完全に水平・安定を保った映像は不可能に近かった…その限界を打ち破る画期的な技術ではないかと思います。

ただ、面白い製品なんですけど、根本的に従来の「カメラスタビライザー」の理屈で成り立っているものなので、一般の方が、そこら辺の「調整」を理解して使わないと本来の効果が出せないかと思います。自分としてはヒット商品になってもらいたいですけど、不本意な評価に終わってしまうかもしれません。

それでも、既に特許は取っているようなので、ひょっとしたら、追々、この仕組みが従来の業務用プロダクトにも組み込まれるんじゃないかと推測しています。

測り方に注意

上述通り「ドロップタイム」は臨機応変であるものの、一般的に2〜3秒と言われていて、初心者の方はとりあえず、それに倣って間違いはないかと思います。Flycam Nanoに付属していた英語マニュアルを見ても、ベーシックは「2~2.5秒」となっています。

Flycam Nano付属のマニュアルより

ただ、具体的な時間を測って説明している映像もありますが、結構紛らわしいので注意してください。ほとんどが「カウントの仕方」を間違ってます。

例えば、「3秒」だったらスレッドを90度傾けて、離した瞬間から「0、1、2、3」で直立が正解です。が、Youtubeなんかで同様に「3秒」と言ってるような解説動画を見ると、1からカウントしていて、実質「2秒」しかありません。つまり、目的のドロップタイムより1秒短い設定にしている可能性があります。

この間違ったカウント方法でFlycam Nano説明書通りにすると、実際には「1~2.5秒」に設定してしまいます。

常識から考えれば当たり前なんですけど、結構こういう誤解を招く表現が多いので気をつけて下さい。僕も長らく惑わされてました。

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