Release 2017.9.4 / Update 2018.8.28

(日本語) カメラスタビライザーの使い方 概要

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カメラスタビライザーは、動画撮影時におきるブレを解消するための撮影機材です。歩きながらの移動撮影でも、滑空するような映像が得られます。自分は2013年頃に「Flycam Nano」を手に入れて以来、どっぷりではないけど使用歴もそれなりに積みました。

使い方はWeb上の情報を通じて学びましたが、「石の上にも3年」で、それなりの知識と技術的ノウハウを身につけてきたので、独自に得た部分も含め、まとめていけたらと思います(あくまで独自の方法論です、悪しからず)。

買ったけど、難しくて諦めてしまった方が再び触るきっかけになれば。

*詳細説明部分は追々別稿で書き、リンクを貼っていくつもりです。

きっかけ

当時、Steadicam Marlinという製品を、仕事先の関係で触らせてもらったんですが、まあ、全然予想と反する映像しか撮れなかったんです。それで、「結局、こんな廉価版でなく本物のSteadicamじゃないと、ダメなんだな」と結論付けていました。

ところがふと見つけたYoutubeの動画でその考えを改めさせられる事に。

eiji1783さんのスタビ映像は、動きが驚くほど滑らかです。そして何より、Steadicamより全然安い「類似品」でやっていたりして。

これを見て、カメラスタビライザーは「練習の必要な楽器と同じだ」と考えを改め、手頃なFlycamNanoから練習するようになりました。

カメラスタビライザーとは

Steadicamというブランドがありますが、これが本元で、ハリウッドの映画カメラマンであるギャレット・ブラウンさんが考案した映像用の防振装置です。70年代に発明され、様々な映画で活用されてきました。現在では使っていない映画を探すほうが困難なくらいです。

ちなみにこのギャレット・ブラウンさん、かなりの発明家で、他に数々の映像器機を開発しています。昨今のスポーツ中継がドラマチックに観れるのは、ほぼこの人のおかげだと思います。

ともあれ、これだけSteadicamが映像業界で何十年も愛用され続けているわけですが、その原理は重さのバランスを調整し(重心をとらえ)、人の操作で動きを補佐しているだけの単なる「ヤジロベー」です。この構造は発明当初から全く変わっていません。3方向の軸を自由に可動させられる“ジンバル”によって操作する人の動き(揺らぎ)を切り離し、魔法のような映像を実現しています。

“Steadicam(ステディカム)”は上記の通り、現在の映像防振装置の元祖的な存在です。現在ではTiffen社で管理・製造されていますが、これは商標登録された固有名詞なので、他の類似品は“Camera Stabilizer(カメラスタビライザー)”と一般名詞で呼ばれています。勿論、それらも原理は一緒であり、安価なタイプなら個人でも入手できます。

ところが、これらカメラスタビライザーは撮影前の調整作業(バランスをとる事)が高度な技術で結構な経験が必要です。Web上では調整方法の説明が数多く見つかりますが、結局、自分の感覚として身につかないと使い物になりません。

この、「自分で手探りしていくしかない」という先の見えない難しさで、諦めてしまった人も多いのではないかと思います。

ブラシレスジンバル

従来のカメラスタビライザーが難しいことから、近年では「ブラシレスジンバル」と呼ばれるタイプが流行っています。これは電子ジャイロセンサーを使って「3軸の傾きを電動モータで強制的に補正し、水平を保持する」仕組みになっています。いわゆる電子制御の「マシーン」で、初めて触った人でも如実に手振れ防止効果を得ることが出来ます。

ただ、色々書きたいことはあるんですが、ここでは扱いません。あくまで従来の方式による「カメラスタビライザー」についての話なので。

スタビライザー選びのポイント

Amazonで検索すると、サイズ・値段も多種多様で、多くのカメラスタビライザーが見つけられます。

Amazon カメラスタビライザー

大きく捉えるとスタビライザーのタイプは、横から重心を支える棒状の「スレッド型」と、真下から重心を支える弓のような形状の「ハンドヘルド型」に分けられるようです。

Steadicam Solo
Amazonより

Steadicam Merlin
Amazonより

弓系は扱い方も分かってない大昔に触ったきりなので何とも言えないんですが、自分はスレッドタイプの方が扱いやすいのではないかと思います。何故なら錘とのバランス関係がパッと見で分かるからです。もし、右上のMarlinを見ただけで、「どうバランスがとられているのか」すぐに分かるのであれば、問題ないのかもしれませんが…。

色々と「このスタビライザーがいい」とか「これはダメ」とかの評判が飛び交っていますが、自分の結論としては、根本的に以下の条件が満たせれば、後でどうにか出来ると思います。

  • ジンバル(ベアリング)の精度
  • 機体の剛性

後は、調整・操作技術に依存します。そしてその技術を助ける要素として「慣性モーメント」があります。

ジンバルの精度

カメラスタビライザーの肝であるジンバル部分は、3方向へ自由に回せるようになっていて(主に3次元分で3個のベアリングを使用)、それが操作する人の手ブレを切り離してくれます。

よって、このベアリングが如何に滑らかに動くかがポイントになってきます。引っ掛かりがあると、それをカメラ部分に伝えてしまうからです。

そして、ジンバルにガタがないことが大事です。これは、全ての軸受け自体がちゃんと固定され動かないということです。動くということは、離れたりくっついたりするわけで、それは即ちぶつかる時もある、ということになります。これがモロに振動を与える原因になります。自分が持つスタビライザー3台中2台にそのガタがあり、その問題に大分悩まされました。

また、スレッド型の場合、3軸の回転中心点がしっかり交差しているか、ということも大事です。が、多分、最近の製品はある程度クリアされているのではないかと思います(かつては結構雑な作りも多かったようです)。

剛性

調整・操作の技術は、最初ものすごく高い壁なんですが、これをカバーしてくれる要素として、「重さ」と「大きさ」というものがあります。いわゆる“慣性モーメント”というやつです。スタビライザーがより重く・大きければ(慣性モーメントが強ければ)、バランス調整がドンピシャでなくても、また、細かい操作が出来なくても、ある程度効果的な映像が得られ易くなります。

FlycamC5がいい」という評判がありますが、まさしくC5が重くガッチリしているからだと思います(その代償として「腕が辛くて持ってられない」みたいな話も付いてきてるようですが)。

とにかく、慣性モーメントを強くするためには重く、大きくなるよう改造・拡張していけばいいんですが、そうなると今度は、ボディが耐え切れずガタガタ揺れるようになります。これを防ぐには剛性が必要になってきます。固定にガタツキがないか?素材はプラスチックよりアルミ、アルミより鋼鉄。みたいな話です。

こちらはWieldy(中国メーカー)のスタビライザーを使って練習した映像です。

3’13″付近。「大きく・重ければより安定する」ことに気付き、錘の位置を広げ、積載量を増やし、総重量6kgぐらい(勿論、サポートアーム付)にしたら、剛性が足りず、走るとスタビライザー自体がガタガタ振動するように(スペック的には許容範囲内のはずだったんですけど…)。

手に入れた製品を、そのまま使えばこういった事は起きないのですが、より良い結果を出そうと改良していけば、こういった問題にぶち当たっていきます。

wikipediaより

映画撮影やENG系の大型カメラを載せられるハイエンドのSteadicamがデカくゴツいのは伊達ではなく、こういった、安定性&剛性をより効率的に得るため計算・設計された結果だと思います。

いわずもがな、Steadicamブランドの製品が最もこれらを配慮した製品であることは間違いないですが、類似品でも、改良するノウハウ、そして調整と操作の技術を習得できれば、限りなく近い効果が得られるのではないかと自分は思っています。

慣性モーメント

慣性モーメントを大きくすることは安定性を求める上でかなり重要です。

これは物体の回りにくさ・止まりにくさを示す言葉で、大きいほど、または重いほど、その力は強くなります。この力によってスタビライザーが無駄に回転するのを防げるようになります。よく言われる「直進性」に絡んできます。

I が慣性モーメントの量。M は物体の質量。κ は長さ、つまり回転軸からの距離になります。数式を見てもチンプンカンプンですが、M よりκ を増やしたほうが結果が大きく変わることは分かります。

具体的に言えば、錘やカメラの位置が回転軸であるジンバルから離れれば離れるほど、スタビライザーは回りにくく(止まりにくくもなりますが)なるわけです。なので、なるべく大きく、重いタイプのカメラスタビライザーを選んだほうが効果を得られやすいということになります。

また、そういったタイプでなくても、この法則に倣い、Web上ではいろんな方が、錘の位置を回転軸から離す改良を施し、同様の効果を得ています。勿論、自分も同様の処理をしています。

錘の位置を従来より外側へ持っていくことで「慣性モーメント」が増大

ホームセンターで適度な鉄材とボルトを買ってきて延長するだけなので、簡単に改良できると思います。ただし、両錘の距離が揃ってないと意味がありません。関係がシンメトリーであることが重要です。

また、離れるほど効果がありますが、あまり広げすぎると邪魔になるジレンマがあるので、そこら辺の度合いは自分で探る必要があります。

バランス調整

カメラスタビライザーをちゃんと機能させるためには、念入りな調整が必要になります。基本的に2つの要素があります。

順序としては、

  1. ドロップタイムを、「ほぼない」くらいに設定
  2. (ドロップタイムを設定するために)ざっくりスタティックバランスを整える
  3. 改めてドロップタイムを設定する
  4. 台座が水平になるよう、正確にスタティックバランスを整える

人によってやり方は違うでしょうし、自分もいつもこの通りにやっているわけではないんですが、この順序でやっていくと、精度を追い込んでいきやすいのではないかと思います。

そして、更に正確な動きを望むのであれば、もう1つ、「ダイナミックバランス」調整というのがあります。

  1. ダイナミックバランスを見る
  2. 偏っていたらダイナミックバランスをずらす
  3. スタティックバランスを再度調整

これは高難易度で、「スタティックバランス調整が苦にならない」ぐらいのレベルにならないと難しいかもしれません。ダイナミックバランスはスタティックバランスが合って、初めて確認できるものだからです。両バランスがとれるまで延々繰り返すので、スタティックバランスを合わせるのに5分以上かかる人は、多分嫌気がさします。

ダイナミックバランスの偏りをある程度解消できれば、ジンバルがちょっと動いた時にグルグル旋回しづらくなるので、操作が楽になるうえ、より安定した映像が得られ易くなると思います。

あるいは、上述のように慣性モーメントを大きくしていき、ダイナミックバランスの偏りを「相殺」という逃げ方もあります。

操作

操作を習得するには調整がちゃんと出来ることが大切です。調整が出来ていない状態で練習しても操作は身につきません。

カメラスタビライザーの映像を検索すると、全く触れないで、ただ成り行き任せにしている人も多いです。ただ、(自分の技術力もまだ未熟なのでエラそうな話で恐縮ですが)しかるべき調整・操作をすれば、カメラをパン(横振り)やティルト(縦振り)することも可能です。

持ち方

自分の経験から、操作と言っても100%制御するわけではなく、誘導する感じに近いです。重心付近を親指で支え、それを軸に他の指で操るかたちが一番良いのではないかと思っています。

こちらでFlycam Nanoを使い、自分なりの持ち方を説明しています。

歩き方

カメラスタビライザーにはそれ用の歩き方があります。上手く歩けないと、画面の水平は保たれていても、縦にピョンピョン跳ねているような気持ちの悪い映像になります。それを抑えるような歩き方を身に付けないといけません。

「すり足」なんて表現もされたりしますが、要は腰の高さを保ったまま移動する歩き方です。自分の印象としてはASIMOの歩き方が近いんじゃないかと思います。

とはいえ、こんな歩き方を参考にしても中々真似できないと思います(自分もこんな歩き方は一生できそうにありません…)。

第一線のプロの歩き方が分かる映像があります。

こちらはサポートアームのバウンス比較テストみたいですが、実際の歩き方をサイドから分かりやすく確認できます。壁のラインを見ながら腰の高さに注目すると、見事なほど真っ直ぐ移動しているのがわかります。

…なんですが、実はそれよりも手を使わずしてスレッドとの距離を一定に保っている平衡感覚に目が行ってしまいます。アームはベアリングで自由に動くようになっているので、よっぽど直立体勢を保持できないとあらぬ方向へ行ってしまいます。さらっとやっているけど、この「手放し歩き」、かなり高度な事なんですよね。

ただ、これを真似るのも難しい…自分は独自のアプローチを模索しています。

  • Penguin walk

その他

使用機材

カメラスタビライザーを使っている方は、大抵、デジタル一眼レフに広角レンズ(ワイドレンズ)の組み合わせで、パンフォーカスになるような設定にしています。

良く使う Tokina 11-16mm F2.8

広角にするのは、より手振れの影響を少なくするため。パンフォーカスにするのはスタビライザー使用中はレンズを直接触れないので、予めピントが合う範囲を広く取れるようにするためです。

具体的には、35mm換算で焦点距離が10~20mmくらいのレンズといった感じです。露出を開放から4~8段階くらい絞り、深い被写界深度で使います。

Amazon – 広角レンズ

ただ、正直な話、わざわざその装備・設定で調整に四苦八苦するのであれば、コンデジ・アクションカム・スマホなど、体積の小さく広角でも取れるカメラを使ったほうが割に合ってるかもしれません。何故なら、ダイナミックバランスの偏りに頭を悩ませることがなくなるからです。

所有スタビライザー

所有するスタビライザーは、正直、強くオススメできるものではないですが、参考として簡易的な感想等を書いておきます。

Flycam Nano

適度なサイズと重さ。構造がシンプルなので、初めてでも扱いやすい。が、

  • ジンバルの取り付け部分が台座と近く、ハンドルが当たり易い
  • 台座固定のネジが前後左右で8本、緩めて締めてのバランス調整が大変
  • 付属のクイックシューはプラ製でガタガタ。使えない
  • ジンバル位置の調整不可
  • ポールの長さ調整で、錘の角度が変わってしまう
  • ベアリングがそこまで滑らかでない

Wieldy Steadicam

アーム&ベスト込みで入手。ポール部分はカーボン製。台座調整機構がネジでスライドするので、Nanoに比べて大幅に楽。また、ジンバルの位置も上下できる。が、ジンバルに決定的な欠陥があり、現在はほぼ使っていない。調べたらGlidecamのコピー品(Steadicamの類似品の類似品)のようです。

  • ジンバルの精度が酷い。改善できないレベルのガタあり
  • 耐荷重がスペックと大きく異なる
  • 同封パンフレットに堂々と“Steadicam”と書かれていた…

Andoer Camera Stabilizer

Flycam Nanoより小型を、と思い購入。iFootageのWild CaT IIコピー品。ポールがカーボンで軽いが、固定すべきところはちゃんと金属。台座バランス調整機構は縦横それぞれネジ1本で固定できるので、スライド調整が出来て楽。

  • 小さいので調整・操作がシビア(その分、携帯性は高い)
  • ジンバルに隙間、ガタがある
  • ジンバル上下位置調整不可
  • 組み立ての雑さから、色んなところが固定しきれていない(コピー品なので剛性が微妙)

詳細はこちらに書いています。

こんな感じで自分が手に入れたスタビライザーは、一長一短なので、「これなら誰でも」といえるものではありません。世間的にはFlycamC5の評判がいいようですが、重量的に連続使用は難しそうなので何とも言えません。また、Steadicam Soloも結構重いようなので、体力に自信がない人には微妙かもしれません。本家なので、プロダクトとしての精度は完璧なんでしょうけど。

WildCatタイプは小さいので、初めて触る人にはオススメ出来ないんですが、調整機構はかなり勝手が良くて、扱いやすいです。同じようにネジ1本だけでプレートを噛ませ固定・スライドできるタイプをポイントに選ぶといい様な気がします。

アーム&ベスト

より安定を求めてカメラスタビライザーに重さを追求し始めると、到底、腕だけで支え続けるのは困難になります。そこで、サポートアームとベストが欲しくなってきます。基本的に、これらはスタビライザーの重さを体全体で受け止めるための「補助器具」です。

アームはスプリングを使ったサスペンション機構になっていて、一応、歩行時の振動を吸収する助けもします。

Wieldy製のアーム

そして、ガッチリと上半身全体へ固定するベストに接続することで、アーム&スタビライザーの重さを、腕の変わりに体全体へ分散し支えるようになっています。要は、例えば10kgの重さを「持つ」のではなく、「背負う」感覚で扱えるようになります。

Wieldy製のベスト

スタビライザーをより重くでき、安定性を向上できることは間違いないのですが、気をつけないといけないのは、「サポートアームは歩く縦揺れを完璧に解消する道具ではない」ということです。

勿論、ある程度の揺れに対しては効果はあるんですが、あくまで一定周波数の振幅においてです。これは、車のサスペンションが全ての振動を吸収しないのと一緒です。つまり、結局は縦揺れしない歩き方を習得しないと滑るような映像は得られません。

また、セットで持ち運ぶのは大掛かりになってくるので、結構、面倒です。興味がある方はそこら辺をよく考えて購入を決めたほうがいいです。

 

余談ですが、このサポートアームに関しては本家Steadicamならではの機能があります。

他の類似品は単にスプリングを張っているだけなので、その高さを変えることは出来ません(もしそうしたければ、力ずくで常に押さえ込むか持ち上げ続ける必要がある)。しかし、Steadicamのサポートアームは、“Iso-elastic”と呼ばれるその機構で、重さを感じずに高さを変えることができます。

独自の特許をとっているらしいので他は真似できず、steadicamを使う強みの一つになっています。ここで特許に関する情報が見れます。

面白いのは、この技術は映像の垣根を越え、製造業の現場や、医療器具としても使われているようです。

ギャレット・ブラウンさん、凄い発明家です。

参考リンク

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